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【 No.2 (2018年4月発行)

※赤字の記事を公開しています
【 特集 】 チュウヒ類のモニタリング
 ・ チュウヒ類の越冬期一斉個体数調査の結果概要(2018年)
 ・ 渡良瀬遊水地におけるチュウヒ類の就塒調査の歩みと成果
 ・ 岡山県におけるチュウヒ個体数の推移


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チュウヒ類の越冬期一斉個体数調査の結果概要(2018年)

 多田 英行 (日本野鳥の会岡山県支部)

 平野 敏明 (バードリサーチ)


 
 本調査はチュウヒ類の国内越冬個体数のモニタリングを目的に、各地でチュウヒ類を観察している方々の協力を得て、2014年から毎年1月に実施しています。

 2018年1月の調査では、北海道から鹿児島までの20都道府県38調査地から情報が寄せられました。その結果、チュウヒは180〜197羽、ハイイロチュウヒは40羽が観察されました。これらの個体数の分布について、チュウヒのうち半数以上は関東地方で観察され、他にも東海地方や関西・中国地方で多くの個体が観察されました。一方、ハイイロチュウヒは関東地方の一部の地域で5〜10羽が観察されましたが、他の地域では少数が観察されただけでした。

 チュウヒ類の個体数変動を調べるため、就塒個体数の記録が2014〜2018年の間に4年間以上ある9都道府県13調査地について、解析ソフトTRIM(Statistics Netherlands)を用いて個体数指標の変化を解析しました。その結果、個体数の変動に有意な違いは得られませんでしたが、チュウヒとハイイロチュウヒともに個体数は横這いあるいはわずかに減少する傾向が見られました(図1)。

 本調査で国内のチュウヒ類をすべてカウントするのは困難ですが、毎年同じ条件で調査を継続することで、チュウヒ類の個体数の増減や、積雪などの気象条件による個体数分布の変化を知ることができます。これらの基礎情報は、今後のチュウヒの保全に欠かせない資料となりますので、今後も調査へのご協力をよろしくお願いいたします。

 

 

  (a)チュウヒ

 

 
 (b)ハイイロチュウヒ
 

 図1.就塒個体数の経年変化
    個体数指標は2014年を1とし、点線は信頼区間を表している。

 
 

 
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渡良瀬遊水地におけるチュウヒ類の就塒調査の歩みと成果

 平野 敏明 (バードリサーチ)
 


 写真1.渡良瀬遊水地

 

 渡良瀬遊水地は、栃木県、群馬県、埼玉県、茨城県にまたがる利根川の上流部に位置する洪水対策用に造成された多目的遊水地である(写真1)。敷地面積が約3,300haあり、そのうち約1,500haはヨシやオギといった高茎植物で覆われている。この渡良瀬遊水地は、日本でも有数のチュウヒの越冬地として知られている。筆者は、ここで1994年から仲間たちとチュウヒやハイイロチュウヒの生息調査を行ってきた。その一つが、ねぐら調査による渡良瀬遊水地で就塒するチュウヒとハイイロチュウヒの生息数のモニタリング調査だ。現在、この調査は、NPO法人バードリサーチと同オオタカ保護基金との共同研究として引き継がれており、24年が経過した。以下に、渡良瀬遊水地でのねぐら調査の調査状況やチュウヒやハイイロチュウヒの就塒個体数の変動について簡単に紹介したい。

 

●調査を始めた背景

 この調査を始めた1990年代の渡良瀬遊水地は、第2調節地の貯水池化の問題や空港建設などのうわさもあった。今後、開発などで渡良瀬遊水地の環境が悪化することが考えられ、その影響でチュウヒたちの生息状況も悪化するのではないかと思われた。そこで、仲間たちと効率よくチュウヒたちの個体数をモニタリングするために、ねぐら調査を始めたわけである。

 

●調査状況

 渡良瀬遊水地でのねぐら調査は、ここ10数年、毎年1月4日に実施している。これは、一つには過去に実施した就塒個体数の季節変動から、調査地ではチュウヒの個体数が1月にピークとなることが多いことによる。もう一つは、1月4日はまだ正月休みの会社が多く調査員を確保しやすいことである。調査を開始した当初は、栃木県在住の鳥仲間たちによって行われていたが、現在は、栃木県内ばかりでなく東京や埼玉県などからも参加があり、調査当日は10数人が集まる。調査地点は、予備調査や過去の就塒状況を参考に5〜6か所である。参加者の振り分けは、就塒個体数の多さや土地勘などで決めている。中心となる猛禽類のベテラン数人に初心者を加えて1チームとして調査する(写真2)。就塒位置をなるべく把握しやすいように、毎年ほぼ同じ調査員が同じ調査地点を担当することが多い。 

 

 写真2. 調査風景(提供:大塚啓子氏)

 

●渡良瀬遊水地のチュウヒの変動

 ねぐら調査の結果、いくつか興味深い結果が得られている。渡良瀬遊水地で就塒するチュウヒの数は、増加と減少を繰り返しているようにみえる(図1)。すなわち、1990年代には24〜26羽であったのが2000年代に入ると徐々に増加し、2005〜2007年には39〜45羽まで増加した。しかし、その後急激に減少したが再び増加し、2013〜2015年には20羽近くまで減少した。ここ2年は、再び少しずつ増加しつつある。2000年代の急激な増加とその後の減少が何に因るのかはわかっていない。少なくとも渡良瀬遊水地の環境に大きな変化は見られていない。とすると、他の越冬地の環境の変化や繁殖地での繁殖成績などと関係しているのかもしれない。
 
 
 図1. 渡良瀬遊水地における24年間のチュウヒとハイイロチュウヒの就塒個体数の変動
    (バードリサーチ・オオタカ保護基金未発表データ)

  

●ハイイロチュウヒの変動

 ハイイロチュウヒは、チュウヒとは別のねぐらを利用する傾向があり、ねぐら環境もチュウヒのねぐらより草丈が低く乾燥した草原を利用する傾向がある。ハイイロチュウヒの就塒個体数は、チュウヒと比べると著しく少ないがそれでも多い時には15〜18羽が記録された。こちらも、周期的な増減をしているようにみえる。

 

●ねぐら数の変化

 渡良瀬遊水地でのチュウヒのねぐらの数は、2000年代までは5〜6か所が確認されたが、ここ4、5年はせいぜい3か所程度に減少している。個体数も主要なねぐらでは多い時には30羽前後が記録されるが、他はせいぜい1、2羽と少ない。ハイイロチュウヒもせいぜい1、2か所で最近は特に1か所ですべてが就塒する。ねぐら数の減少は、両種のねぐらに適した植生が減っているためかもしれない(写真3)。渡良瀬遊水地は敷地面積こそ広いが、チュウヒ類のねぐらに適した下層植生が繁茂しヨシやオギなどの密度が低い草原は著しく限られている。なお、ねぐらの位置は、その時の草原の地表の水位の状態でも変わるようで、地表に水が多い時には、乾燥した草地を利用することが多い。そのためか、ここ1、2年はチュウヒの主要なねぐらの位置が変わってきた。

 

 今後、渡良瀬遊水地で就塒するチュウヒ類の個体数はどのように変化するのだろうか。今後も継続して調査していきたいと考えている。

 

 
 写真3. チュウヒのねぐら環境

 

 

 
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岡山県におけるチュウヒ個体数の推移

 多田 英行 (日本野鳥の会岡山県支部)

 田中 国彦 (希少生物研究会)

 

 チュウヒは岡山県レッドデータブックで絶滅危惧?類とされ、絶滅が心配されています。過去の個体数や生息地の情報は、チュウヒ保護のうえで欠かせない情報ですが、資料として整理されているものは少ないと思います。そこで、本稿では岡山県の事例をもとに、基礎情報を残していくことの必要性を見直してみたいと思います。

 岡山県は北部に中国山地、南部に岡山平野と瀬戸内海が広がっています。岡山平野は江戸時代以前から続いてきた干拓事業によって自然環境が大きく変化しており、一級河川の氾濫原や後背湿地などのようなチュウヒ本来の生息地は既に失われていると考えらます。一方で、チュウヒは干拓や埋め立てに伴って出現と消失を繰り返してきた二次的なヨシ原を利用することで、県内での生息を続けてきたと考えられます。現在の岡山県内の生息地は、干拓地、埋立地、塩田跡地、湖岸、河川敷、空港など、すべて自然開発後にできた二次的な環境です。

 岡山県のチュウヒは主に冬鳥として渡来し、1990年代後半には40羽程度が越冬していたと考えられます。しかし、2010年以降は20羽程度で推移しており、20年間ほどのうちに半減しています。その要因として、工業埋立地での造成の進行や、植生遷移などによるヨシ原の消失が挙げられます。例えば山田塩田跡地では、1999年にチュウヒが最大7羽記録されていたのが、現在では乾燥化による森林化やメガソーラーの建設により0羽になりました。岡山県の生息地の多くは二次的な環境であり、常に開発などの影響に曝されています。近年では生息地でのメガソーラーの建設も行われており、新たな影響として心配されています。また、現在は治水技術の向上によって湿地環境の攪乱がなくなったため、乾燥化や植生の遷移が進むことによる生息地の減少も長期的な課題です。そのため、将来的には岡山県内の個体数が10羽以下にまで減少する可能性もあります。

 今後はこのような記録や予測を基に、岡山県内の生息地の保全や創出に取り組んでいきたいと思います。

 

 

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